音も影さえもなく、ただただ白く静か。
普通だったら恐怖に駆られてしまうそんな場所だが、 私にはとても懐かしく心地よい。
何だかこの白い空間は私を包み込んでくれている様な気がする。
「―――」
口が自然と動いた。
自分でも何を言ったのか分からなかったが、 これが合図だとばかりにカチリと時計の秒針が動く音と同時に、 どこからか煌々とした光が射す。
眩しくてギュッと目を瞑ると聞こえてきた声。
「」
その声に急いで目を開けると目に飛び込んできたのは―――
「お、お兄様!!」
口を動かすと共に体が自然に動き、“お兄様”に駆け寄り抱きつく。
“お兄様”の胸に顔を埋めた際に匂った香りに眉を顰めた。
「何だかとても懐かしい、お兄様。可笑しいわよね。 さっきまで会っていたのにお兄様の匂いすら懐かしいの」
「・・・」
“お兄様”は悩ましげに名前を呼び、優しく抱き締める。
それは本来だったらありえない事だと思えて、は無性に泣きたくなった。
有り得ない。
有り得ない、如何して。
私は今までお兄様と一緒にいた筈なのに。
如何して、私はこんなに・・・・懐かしいの?
「覚えていないのか?」
「?」
“お兄様”に声に埋めていた顔を上げる。
覚えていない?
何を?
・・・分からない。
何も分からない。
は必死に思い出そうとするが、頭の中はこの空間と同様真っ白。
目の前にいる“お兄様”のことしか分からない。
それも辛うじてなのだが、はそれすらも気づかない。
「・・・分からない。 何を覚えていないのかすら分からない。 どしよう“お兄様”、私変だわ。 私可笑しいの!!」
健気な程、必死な声がこの真っ白な世界に木霊した。
「いいか、俺達の時間はもう交わっていないんだ」
“お兄様”は無常にも、知りたくなかった現実を突きつけた。
の記憶はリングによって消されていた。
それがの心からの願いだったから。
Giadeite