大
男
ザー
ザワザワザワ
風が吹き荒れ騒ぐ。
どうやらこの神聖な地に侵入者が入った様だ。
折角心穏やかに過ごしていたと言うのに。
僕の周りを騒がれちゃ堪らない。
此処で食い止めなければ、この地の主が暴れだし面倒な事になる。
・・・・・・面倒だ。
「そこからこっちには来るな。帰れなくなるなるぞ」
「・・・其処で何している」
そう問うてきたのは大きな男だった。
かなり出来る。
そう感じさせる雰囲気を持っていた。
「何も」
「・・・そうか。」
「何か用か?」
「ああ、此処の水が欲しい」
水を求めてくる者なんて珍しい。
「水?何に使う」
「陶芸だ」
「使ってもいいが、絶対に其処からこっちには立ち入るな。それが条件だ」
長い細い湖の入り口。
其処からは水を汲んでもいいが、実をつけた木から奥は立ち入るなと忠告する。
「分かった」
意外に素直な反応に口元を微かに緩める。
「約束」
***
「また来たのか」
始めて来たあの時から頻繁に来るようになった男。
だがそれをいつの間にか楽しみにしていた僕がいた。
「・・・いつも此処にいてつまらなくないのか?」
「つまらないけど・・・外はもっとつまらない」
僕の興味を惹くものは―――今のところ君だけ。
「どっちにしろつまらねぇじゃねぇか」
「そうだな」
「だったら、俺について来い。俺が面白くしてやる」
ニヤリと笑う男に僕の興味、好奇心が膨れ上がっていく。
「くっくっく。面白いね。お手並み拝見するとしようかな」
無表情だった顔から本来の僕に戻った瞬間。
この熊のような大男が僕を動かしたのだ。
こうして2人は一緒に暮らすことになった。
だが問題は山積み。
***
「で、此れは何?」
「家だ」
目を逸らし心なしか小さな声で言う彼。
「はぁ?家?如何見ても豚小屋だよ」
「あ?御前な、いい度胸じゃないか」
広い屋敷やらなんやらで過ごしてきたとっては狭すぎる程だったが、は狭さを言っている訳ではなかった。
「くっくっく。いい度胸してるのは君だよ。
僕を誘っといて家が、散らかっていて足の踏み場もない?
冗談じゃない。今すぐ片付けてよね」
腕を組み仁王立ちでふざけんなとばかりに、低い声で吐き捨てる。
そんな様子のにたじろぎながらも言い返す。
「・・・此れは偶々だ。
言っておくが俺は綺麗好きだ。
だが確かに口説いたのは俺だからな。
片付けるが、その間にさっきの水汲んで来い」
「ふ〜ん。あれって口説いてたんだ。
命令されるのは好きじゃないけど、約束だからね。
僕が帰ってくるまでに片しといてよね」
言い残しさっさと奥に消えていった。
「御前さっきと、豪く性格違うな」
ぽつんと漏れる独り言。
「此れが僕の素だよ」
水汲みから帰ってくるなりの此れだ。
流石の比古も分からないだろう。
「いきなりなんだ」
「だってさっき性格違うっていってたから」
「御前何処まで地獄耳なんだ!」
は人間じゃない為、普通の人より随分耳がいい。
もちろんそんなことは比古は知らない。
嫌、今ので知ったかもしれない。
「。御前じゃない」
「そうか。良いなだな」
「棒読みだぞ。で、君は?」
本当は秘かに感情が篭っていた事に気づいていた。
それでも気づかない振りをするのはなりの優しさ。
「新津覚之進」
「違う。陶芸家としての名じゃない」
新津覚之進と言う陶芸家が湖の近くに住んでいると動物達が言っていた。
いや、主が言っていたのかもしれないが、この際どちらでもいいことだ。
「よく分かったな」
「新津覚之進という面をしてない。もっとごつい名が合ってる」
名前はその人を表す。
陶芸家としての“新津覚之進”では本来の彼を表してない。
「お前な「」」
「お「」」
「」
勝ち誇ったようにフッと笑う。
「比古清十朗だ」
「清十朗は微妙だけど、比古・・・君を表したみたいだ」
何処か嬉しそうに目を細める。
は随分と比古と言う名が知れて嬉しかった様だ。
「それはもういい。それより・・・俺より年下の癖に≪君≫。しかも言葉遣いも男っぽいときた」
「じゃあ、≪貴様≫と言った方がよかった?口調もご希望とあれば≪じゃ≫とか≪妾≫とか使ってあげても良いけど?」
「・・・。そのままでいい」
最初から分かっていたと含みのある笑みを浮かべる。
「分かればいいんだよ」
会った時からには敵わない比古だった。
惚れた弱みかはたまた、単にに勝てないだけか謎である。