買
い
物
「ねえ、一緒に暮らし始めて一度も陶芸しているところ見たことないんだけど」
「まだ暮らし始めて3日だろが」
「もう3日だよ。本音を言うと暇。毎日毎日、比古の為に家事洗濯ばかり!」
常に言いたい事を言っているには本音も何もないのだが。
それに家事にしても、
比古をからかいながらと至極楽しげにやっているが
「創作意欲が湧かねぇだ仕方ないだろ」
「暇。暇暇暇」
「そんなに暇なら。だったら下にでも下りて、酒買ってこい」
「あ、そうだ、食料がもうあんまりないんだった。町に行ってみよ!」
「おい、食料より酒だ」
「お金」
「食費はやっただろ」
「酒代にきまってるじゃん。食費とは別だよ。後、手間賃」
「がめつい奴だ」
「む。比古の収入源が乏しいのがいけないんじゃないか。そのせいでお金がないんだよ」
「だからまだ、3日しかいないのに分かるか」
「だたら比古の金遣いが荒い=酒と女遊びが酷いとか」
「おい」
「ま、冗談は此処までにして、僕初めて下に行くんだよ?お小遣いぐらいくれてもいいじゃん」
「ほら。無駄遣いするなよ」
お金を貰って意気揚々と鼻歌を歌いながら、下山していった。
それを見て比古は頬を緩ませていた。
「そういえば、帰り方分かるのか」
案外無鉄砲なに不安を覚えた比古だった。
***
「ふぅ。やっぱり賑やかだなぁ。でも偶にはいいかも」
初めてにしてはキョロキョロぜず堂々と歩く。
キョロキョロ歩くと田舎者だと直ぐ分かり、掏りなどに合いやすい(危険)と知っているのだ。
にとってはどれも見たことある光景で、
物珍しげにするほど興味を惹く物がなかった。
暫く歩くと八百屋が立ち並ぶ通りに出た。
「嬢ちゃん、嬢ちゃんだったら特別に安くしてあげるよ。どうだい?」
「どのぐらい安くしてくれるの?」
「これの1割でどうだい」
「うーん。じゃあ、こっちとあれを一緒でその値段」
「うっ。そ、それは」
「じゃあ、今日はいいや」
「ええい、持ってげ泥棒!その値段で、此れもつけてやるよ。その代わりまた買いに来てくれよ」
「あちがとう。もちろんだよ。で、此れは?」
「嬢ちゃん金平糖知らないのかい?」
「金平糖・・・名前は聞いたことあったけど・・・始めて見た」
「くぅぅ。嬢ちゃん苦労してるんだな」
「えっ?そうかな」
「しかも、それが苦労とも分からない。いったいどんな親と暮らしてるんだい」
「親と暮らしてるわけじゃないよ」
「拾われたのかい!?」
「うーん。そうかな?ま、親じゃないけど、常に酒を飲んでいてのらりくらりと生きてる人かな」
「泣けるねー!!」
(え、どこが?)
「おい、いらぬこと吹き込むな」
「・・・比古」
結局何だかんだ言って心配だった比古は迎えに来たのだった。
「先生!?もしかして、嬢ちゃんの保護者は先生かい?」
「まあ、そんなもんだ」
「そうか。だったら苦労するはずだ!そんな嬢ちゃんには大根も御負けで付けてあげよう。強く生きるんだよ」
一人で納得し泣きながら大根を差し出す八百屋の親父。
どうやら、此処の八百屋の親父は比古のことをよく知っているようで、の大変さを察してくれたようだ。
といっても(くどいようだが)まだ3日。
「うん、大丈夫。主導権はこっちにあるから」
「・・・」
「さ、ぼさっとしてないでいくよ、比古」
会話が終了すると、愚図愚図してられないとばかりに、不機嫌な比古をグイグイと引っ張って引き摺っていった。
「そのうち結婚したりしてな」
そんな後姿を見て八百屋親父は、案外いい組み合わせだと思ったりしていた。
***
「で、御・・・。酒は買ったんだろうな?」
比古が御前と言いそうになった瞬間、ギロッと阿修羅のごとくが睨んだ為、流石に冷や汗を掻きつつ言い直した。
何処からか酒を出し比古に見せた。
「勿論。≪鬼殺し≫を買っといたよ」
「何!?幻の酒じゃないか。何処で手に入れた」
「ふふふ。秘密に決まってるじゃないか」
「・・・だろうな」
鬼殺し。
その味は絶品にして、天国にも上るようだと云われている。
その言葉の裏は、昇天しかけるほど強い酒。
果たして2人でもこの酒には酔ってしまうのか。
それとも鬼殺しも水になって仕舞うのか。
それは神のみ知る。