愛する人の為に穏やかなる日を




殺しても殺しても、ウジャウジャと湧き出る雑魚。
このファミリー、アラゴスタファミリーの何処にこんな人数を隠していたのか。
だがもう聞いても答えられる者はいない。
が此処に侵入して一番にしたのはボスを殺すことだった。
何もこの日にボンゴレを奇襲しようとしなくても、とぼやきながら敵のボスにも気づかれることなく幹部を皆殺しにし、ボンゴレに対する情報等を処分した。
しかしその後が大変で、さして強くもない所謂、雑魚がざっと500人ほどいたのだ。
可笑しい。
私の調べじゃ、半分ほどだったはず・・・。
そう言えばアラゴスタファミリーは、近じかレディッアファミリーと合併するとか聞いた様な。
此れを聞いたときは、会社じゃないんだから合併て・・・と思ったもんだ。
ボスは「普通は同盟を組むからね。」と苦笑いをしつつも目は鋭く少し警戒していた。
今回のは任務ではなく単独行動。
ボスの把握範囲外だ。
唯リボーンは言わなくても知られてそうだし、後で攻められるのも嫌なので事前に話はしてある。
帰ったらボスに怒られるだろうな。
最悪泣かれるかも。
まったくボスは心配性なんだから。
と、ぼんやり考えながらも人を殺す手は止めず、絶えず断末魔が響くという最悪な状況を作っているだった。

でも何と言われようと、今日だけは穏やかな1日をボスに過ごしてほしかった。
10月14日はボンゴレ10代目ボス、沢田綱吉の誕生日。
元々殺すことに良しとしない優しいボスに、せめて誕生日だけでも平和に暮らしてもらいたい。
偉大なるマフィア、ボンゴレのボスなのだから甘いことは言えないが、唇を噛み締めて悲しげに人を殺すボスの姿を、秘書として隣で見ていて辛いものがあった。
ボスにはそんな顔をさせたくなかったし、手を汚させたくなかった。
態々ボスが手を出さなくても、私が始末しますと言って、または裏から手を回して排除してきたが、それも長く続く筈もなくリボーンに指摘されボスもついには手を汚した。
私が綱吉をボスとしか呼ばなくなったのはそれからだ。
マフィアになる時、外面だけではなく内面も守ると誓った筈なのに、守れなかった私が情けなく悔しい。
最早、私には呼ぶ資格はない。

それにボンゴレの皆はボスだけじゃなく皆優しい。
リボーンもまた然り。
守護者の訳でもない私が如何して大事にされているのか、はたはた疑問だが。
私は常にそれに見合った価値になるよう努力し、毎日が毎日必死に生きてきた。
皆の優しさに甘えちゃいけない。
けど此処までされると、如何も甘えたくなってしまっていけない。
今だってほら、着信が284件。
話してあったのに、リボーンからありえない位の着信。
ボスからは・・・うん。
休暇を貰った筈なのに、着信が716件。
1000件過ぎてる・・・もしかしなくても携帯に入りきらなくなってパンクしているようだ。
毎度毎度の事ながら、休暇を貰ってもメールや電話を頻繁によこすボスには心配性にも程がある。
流石の私も30分毎にくるのもきつい。
休暇も休めたもんじゃない為、ここ最近は休暇をとってなかったのがいけなかったのか、今までにないほどの着信量だ。
ボスじゃなかったら、怖いものがある。
ストーカー・・・と言えば、骸も怪しい。
心なしか監視されているような気がしてならない。
私を見る目つきも厭らしく、たまに感じる視線もネットリして気持ち悪く、よく私を見て怪しく「クフフ」と笑っている。
リボーン曰く、私にはボスの目が常に光っている為、手を出せないらしい。
いつの間にか守るつもりが守られている。
心配性のこともあれだが、守られるのも秘かに嬉しかったりする。
私はボス、沢田綱吉を一人の女性として愛しているから、貴方のちょっとした仕草や、泣き顔が愛しく思える。
貴方のどんな理不尽な命令や、行動も許してしまう。

「誕生日おめでとう。綱吉
貴方が生まれてきた今日という日に感謝します。





ああ、今日は私だけでなく、月も紅い。
血塗られた私。