If you open the door
トントンとリズムカルにドアを叩く音がする。
チャイムがあるだろうに、態々ドアをリズムカルに叩く酔狂な奴は誰なんだろうか。
もしかしたら茶目っ気タップリの隣の住人・・・なわけないか。
緑の瞳の下に常にクマを飼い馴らし、
煙草を咥え黒いニット帽を被った彼はどう考えてもそんなことをする人に見えない。
どっちかと言うと、江古田高校クラスメイトの彼の方がしそうな悪戯であるが、
彼には私の家に来る時は必ず連絡をするように言ってある。
何たって彼は新一と瓜二つなのだから、
もう何ヶ月も会っていないという今の状況ではいきなり来られたら間違えてしまいそうなのだ。
期待しては、裏切られるのはこの数ヶ月の間嫌って程味わってきた。
自分で勝手に期待してただけだと分かっていても辛く耐えられなくて、
最近やっと期待しないということを出来るようになった。
それでも彼の顔を不意打ちで見れば、私は一瞬で我慢の限界に達してしまう。
こんな状況にうんざりし、思っていたより脆く弱い自分に嫌気がさすと同時に、
今までどんだけ固執していたか思い知らされた。
新一がいなければ私はこんなに弱い。
だけどこんな自分を変えようと彼が残した一枚の写真に誓った。
弱いなんて私らしくない、私は強いんだと両頬を叩き自分に活を入れる。
そんなときに聞こえてきたノック音。
面倒だなと思いつつも不愉快極まりない音を止めるべくドアに向かえば、
乱雑に転がる靴達が目に入り、暫く沈黙してしまうがこの際どうでもいいかと開き直った。
開けて一瞬で後悔した。
面倒などと言ってないでちゃんと覗き穴で確認すればよかったのに、
しなかった私は相手を見るなり条件反射の様にドアを閉めようとしたが、
相手もさせるかとばかりに無理やり体を捻じ込み、
どう必死に頑張っても相手を家に入れるほかない状況に陥ってしまった。
無理無理無理。
決意したばっかりなのにもう心が折れそうだ。
お願い今は帰って。
普段だったら願わない神様に願ってしまう程必死に懇願した。
「久々だからって扱い酷くないか?」
酷くない!!あんたの顔と声の方がよっぽど酷いし、ソックリだなんて詐欺じゃない!と叫んでやろうとしてはたと気づいた。
昨日だって学校で会った筈なのに久々?
小さな疑問、よく考えれば大きな間違い。
徐に顔を上げれば思ったとおりお調子者の顔と思いきや、そこにいるのは―――
「しん・・・い・・・・・ち」
乾いた唇が彼の名前を紡ぎだすとは裏腹に、頭の中では否定の言葉でいっぱいだった。
嘘、新一がいる筈ない。
だって彼は今・・・と考えて私の思考は止まった。
「」
一言、彼が耳元で私の名前を囁く。
それは酷く切なく甘い響き。
もう、どうしているのか何て疑問些細なことでどうでもよかった。
貴方が傍にいてくれるなら、私はそれだけでいい。
愛しい彼がいた
2008,03,10