He is beyond
おろしたて花柄フレアスカート、
胸元が大きく開いたVネックのカットソーに
クリーム色のスプリングコート、白に赤の線が入った低めのピンヒールパンプス。
そして黒のエナメルバック、
花粉避けのための銀の淵にピンクのレンズとちょっとお洒落なサングラスをして、
玄関のシューズボックスのドアを開き等身大の鏡を覗く。
「よし、完璧」
久々に友達と遊びに行くことになり、気合を入れてお洒落をした。
それでも尚、お洒落上手の彼女には勝てないだろうな。
漏れるのは溜息ではなく苦笑。
私と彼女では環境が違うのだから当たり前なのだと。
開けたシューズボックスのドアを閉めて、腕時計で時間を確認する。
時刻は10時15分、丁度待ち合わせまで15分。
此処から待ち合わせ場所まで5分だから余裕だとホッとする。
オッチョコチョイのは油断すれば直ぐに遅刻してしまうのだ。
時間厳守の際には家を出て行く5分前に携帯のアラームをセットしていたりするのだが、
アラームに気づくことは少ない。
気をつけてみたところで、コーディネートやらでわたわたしている状態では効果はない。
そんな日常で今日は本当に早く支度が出来たと満足げにうんうんと頷き、
いざ出陣と勢いよくドアを開けた。
「・・・」
ゴンっと妙な音がするなと思えば、痛みに耐えるかの様に頭を抱え蹲る白い物体。
高校生の癖に何故か白のスーツを着こなし格好つけているにも関らず無様でしかない
彼が哀れに見えてきた。
だが普段は豪そうな彼が滅多に見せない蹲る姿はとても新鮮でいて、ちょっと可笑しかった。
「あ〜ごめん。でもそこにいるのが悪いんだよ?」
笑いを含め目をさ迷わせながら声をかけると彼、白馬は顔を上げパッと起き上がる。
反応早いうえに無駄に顔が近い・・・。
「ええ、私もチャイムを鳴らそうかちょっと戸惑っていましたし、悪かったと思います。すいません」
高飛車な彼が殊勝に頭を垂れ反省する姿は初めて見る。
今度のは新鮮と言えば新鮮なのだが
いかせん妙に神妙な彼、気持ち悪いことこのうえない。
何か企んでいるのかと一瞬思うが『しろうまの探偵さん』がそんな事するわけがない。
何たって彼は『しろうま』と黒いことが嫌いなのだから。
いやいや、私の勝手な思い込みだけど、強ち間違っていないと思う。
何たって私は勘だけはピカイチ、と言うか勘だけで生きてきたと言っても過言ではないから。
凄いとかいいなと言われるけど、実際はそんなにいいものでもないと思う。
この勘のせいで回避できたこともあるけど、
面倒ごとに直面してしまう方が多いし
10何年生きてきて実に悪運強い女だなと自分でしみじみと思ってしまうぐら危うい場面がいくつもあった。
改めて思うと、私今まで良く生きてこれたな、豪いと自分で自分に拍手を送りたくなってしまうのも致し方ないだろう。
「目を丸くしたと思ったら顔を引きつらせ、仕舞いには落ち込んでみたりと如何したんですか?」
どうしたもこうしたもあんたの気持ち悪い反応のせいで、
今までの自分を振りかえざるおえなかったんだよ。
何も彼のせいではないけど、今までの人生が悲しくなってちょっと八つ当たりしたくなった。
八つ当たりなんて見っともないのだから声に出さなくてよかったと目を下に落とせば、
腕時計に目が釘付けになった。
10時26分、走ってもギリギリな時間だ。
「ごめん、今急いでるから用件は後で聞くよ」
慌てて白馬の横を通り過ぎようとすればガッチリと掴まれる腕。
態々家に来るぐらい大切な用事なのだろうけど、私も急いでるから腕を放して欲しい。
今日約束している相手は遅れたら何するか分からないし、
今私の中で彼より友達の方が優先順位が上だった。
「・・・」
早く離せと睨みつけるが、
本人は我冠せずと言った感じで離すどころか上々に掴む力が強くなっていく。
痛みを感じたのと時間が迫るのに焦りイライラする。
時間を確認すればもう既に約束の時間はピッタリ。
いい加減離してよと怒鳴り散らしてやろうと口を開けば、彼の方が早かった。
「さん」
名前を呼ばれたことに吃驚し、さっきまでの怒りは消えていた。
とはいえイライラは募るばかりでこの際掴んでる手はどうでもよいから、要件をさっさと言ってしまえと
静かに待ってみても、後に続く言葉はない。
もう我慢の限界とばかりに腕を振り切ろうと腕を乱暴に振れば、
更に力を込められて思わず顔を歪める。
そんなの顔を見てか見ないでか、彼は耳元で囁いた。
「 」
いました・・・しろうまの探偵さんが
2008,03,11