Melanchoil St.Happy Valentine's day
息を吐けば白くなる季節。
カレンダーを見れば今は2月の中盤。
「バレンタインデー・・・用意していない」
はぁと溜息を付き、
は徐に携帯を取り出しボタンを押していく。
意図してなのかリズムをとる様にの指は童謡のさくらさくらのメロディーを奏でた。
「例の情報を教えて欲しいんだけど・・・うん・・・わかってる・・・・・・仕方ないな・・・・了解」
ピッと携帯を切り履歴も消す。
情報が漏れないためにと、情報屋であるの拘りだった。
勿論、電話番号も登録してはいない。
全て覚え出来るだけ情報を、痕跡を残さない。
念には念を入れ徹底的にするのが、
長年情報屋としてやってきたのプライドとちょっとしたプロ意識。
ゆえには業界では有名かつ一級の情報屋として重宝され、
正確な情報は料金も恐ろしく高かった。
それでも依頼はひっきりなしにくるため捌くだけで
1年があっという間に過ぎていってしまう。
今日はそんな中での久々の休みだった。
*
カランとカウンター横のドアのベルが鳴る。
カウンターに座っていたはススキ色髪の男を目の端で捕らえると口元を緩め、
紅茶を満足そうに飲む。
今日も私の情報は完璧だった。
一連の動作を目ざとく見ていたマスターも、
満足げにニッコリと男に笑顔を向けた。
「いらっしゃいませ」
男は誰に促されるわけでもなくの隣の席に座る。
それはまるで引き寄せられた様に。
「・・・コーヒーを1つ」
口を付けていたカップをゆっくりとソーサーに戻し、手を顎に添えて男に顔を向ける。
「ダージリンティー」
ダージリンティーがこの店のおススメなのは真実だが、
本当言えばこれは常連さんだけが知る情報だった。
スタンダードな紅茶にも構わず、
メニューに載っていない為あることを知らないのだ。
「え?」
注文ではなく明らかに自分に向けられた言葉に男は戸惑っていた。
そんな男をよそには首を少し傾げ、ニッコリと微笑みつつ言葉を続けた。
「ここはコーヒーより紅茶の方がおススメなんです」
「そうなんですか。じゃあ、ダージリンティー1つ」
始めこそ戸惑ったものの、職業柄かはたまた彼の性格上からか、すぐさま彼も微笑み返した。
接客のため常時笑顔のマスターも含め3人で微笑みあう光景は、
一見穏やかそうに見えて実はそうではなかった。
何故なら3人が3人とも腹の中では違うことを考えていたからだ。
(コーヒーショップなのに紅茶を薦めないで下さい)
(流石彼ね。気配が一般人と変わらない・・・)
(可愛い子だな〜。こんな子が職場にいたらな・・・って無理だよ!)
マスターが紅茶を出すと共に腰を上げる。
「ご馳走様」
マスターに世話になったという意味を込めて挨拶をし、
椅子にかけていたコートを羽織る。
目的は果たした。
今は一刻でも早く次の準備をしなければは間に合わないのだ。
なんせ今日は当日。
自分の世界に入りかけていた彼は慌てた様に振り向いた。
「え、あ、もう帰るの?」
「ええ、これでも忙しい身なんで」
はふと思った。
よく考えてみれば彼も今日は忙しいのではないか。
彼は立場上それだけで女がウジャウジャと寄ってくるだろうに。
まして性格がいいのだからなお更だ。
まあ、ルックスは超美形と言う訳でもないがそれなりにいい。
そんな彼が今日のこの日にこんな所でのんびりと寛いでいるのが不思議だが、
こんな所だからこそ来たのかも知れない。
の考えとは裏腹に、
彼は仕事場で何もなかったせいなのか今日が何の日なのかもすっかりと忘れていた。
「では、また会いましょう」
何処か意味ありげにいっそう笑みを深くして、
彼が言葉を発する前にコートを翻し颯爽と店を出た。
*
今日の分の書類を見ていると手紙が混じっていた。
宛名を見るとツナは目を丸くした。
モテルのだがボス一筋で女性には興味ない彼は、
手紙やプレゼントを渡されれば平気で本人の前で焼き払うもとい、爆発させてしまう。
そんなこともあってか、今では女の子からの手紙も珍しい。
「獄寺君、手紙が来ているよ」
手紙を差し出すと、獄寺は90度のお辞儀をして感謝した。
あれから10年近く立っているというのに相変らずの態度だった。
妹に忠犬と言われるのも、いた仕方ないだろう。
「〜〜〜〜〜〜〜!?」
手紙を受け取り名前を見た途端、嬉しそうに目を輝かせ封を開けた。
手紙に目を走らせる獄寺を興味津々といった目で見つめるツナだったが、
読み進めるにつれて段々と表情を曇らせていくのに気づいた。
「獄寺、何泣いているんだ?」
あれはヤバイかなと思い声を掛けようとして、山本に先を越された。
「え?泣いてないよ!これ震えてるだけだだから!!」
まったく山本も山本で相変らず天然だなと改めて獄寺を見れば
「えっ本当に泣いてる!?震えながら泣いてるよ!」
「ほらな!」
「しかも鼻水も涙も滝の様に流して号泣!?」
獄寺が尋常ではないというのに暢気に笑っている山本。
実は部屋のアンティークのソファーを陣取り、備え付けのお茶を勝手に飲んみ寛いでいた雲雀。
山本も笑ってないでどうにかしてよ!
雲雀さん・・・最近俺ソファー強奪されるのではと心配で眠れないんですけど。
お願いですからそのソファーをこの部屋から持ち出すのだけは止めて下さい。
リボーンのお気に入りで、俺の命かかってますから!!
それに値段も目茶苦茶高いし、一点物だから同じ物を用意できないし。
この通り頭下げますから、どうか此れだけは勘弁して下さい。
そして俺に穏やかな眠りを返して下さい。
少々違うことを考えているが、
3人に囲まれ三角形の中心に立っているツナはどうしたらいいのかオロオロしていた。
前を見れば雲雀が煩い黙らせろと目で訴えてくし、
右を見ればさっきと変わらず笑って続けている。
左では事態の元凶である獄寺が手紙で鼻をかみつつ嗚咽混じり咽び泣いている。
この部屋はカオスに包まれ地獄絵図の様だ。
ツナは「誰かー助けて!!」と叫び助けを求めたい、阿鼻叫喚の思いだった。
だが俺はボンゴレボス、と自分に言い聞かせてどうにか収拾を付けなければと口を開いた。
「ご、獄寺君どうしたの」
若干小さめの声だったが、ツナ命の獄寺はバッチリ聞き取ったようだ。
例え自分が号泣していようとも声をかけられたら即座に反応する、
素晴らしい忠犬根性だとツナは拍手を送った。
心の中で。
「十代目〜〜〜〜!!!!」
声をかけられたことが嬉しいのか素早く近寄ってきた。
思わず数歩後ろに下がり顔を引きつらせてしまう。
何だか嫌な予感が今更ながらにして、声をかけたことを少々後悔した。
「い、妹が・・・行方不明に!!!」
妹いたの!?
行方不明って大事だろうけど、そんな号泣するほど?
心の中ではツッコミいっぱいだが、実際には何と言っていいか分からないツナは黙るしかなかった。
「何やってるんだ」
そんなツナを救ったのは意外な事にリボーンだった。
本人にはそんな気は微塵もなかっただろうがツナはこの時ばかりは感謝した。
「リボーンさん!俺の妹が、行方不明に〜〜〜!」
「勝手に行方不明にしないでよ」
いつの間にかリボーンの横にいたに皆の視線が集中した。
唯、に無関心だった雲雀だけは、
目をくれる事もなく優雅に玉露を啜っている。
ああ、雲雀さんその玉露ばっかり飲まないで下さい。
その玉露もリボーン愛用・・・はっ俺どれだけリボーンに気を使ってるんだ。
10年たっても尚、リボーンにヘコヘコしている自分に気づいて少し凹んだ。
「!!」
歓喜あまったといった感じで突進してきた獄寺をヒラリとかわし、
ツナにニッコリと微笑む。
「また会いましたね」
「え?あ、うん」
どうしてこの子が此処に、獄寺君の体当たりをかわした、
などが頭の中でグルグルしておりツナは気が動転していた。
「あの紅茶本当に美味しかったよ」
自分がお忍びで喫茶店に行った事、
獄寺が避けられてどうなったかや
ボンゴレの十代目ボスという肩書きなど全てすっかり忘れていた。
と話していると何だか、一般人だったあの頃を思い出させてくれる。
酷く懐かしく、久しく感じていない感覚。
何をやっても駄目でダメツナと言われていたけど、平和で穏やかだった日々。
あれから10年、血なまぐさいものと切っても切れなくなってしまい決して平和だとは言えないけど、
彼らがいてくれるから俺は楽しく心穏やかにいられる。
そう今だって悪くないと思う。
だけど時々、もう彼ら意外はこの肩書きなしにただただ俺だけを見てくれる人はいないのかな思うと悲しくなる。
それに心奥底を覗けば彼らだって指輪を持つ守護者なのだから、
俺をボスとして強く認識しているに違いない。
例え骸や雲雀さんみたく言動が素っ気なくても、
仕事はちゃんとこなしているのだから彼らだって。
彼女はどうだろう。
ああ、こんなこと考えるだけ無駄だった。
彼女は真直ぐに俺を見つめ逸らさない。
思えば部屋に入ってきてから、獄寺君を交わすときですら目を逸らさなかったではないか。
強い意志が灯るその瞳を見ていると肩書きなんて付属品ぐらいにしか思っていないかもしれない。
「あれはあの店の裏メニュー。その癖に店一番人気なんですよ」
裏メニューなのに一番人気なんて可笑しいですよねと無邪気に笑う彼女を見て、
自然と俺の顔も緩む。
「おい、いつまで暢気に喋ってるんだ」
リボーンの叱咤が飛び、
思わず自分に言われたわけでないのにツナは少し怯んでしまう。
当人は先程とは打って変わり何言っているのかとばかりに睨み、不機嫌さを表した。
「今回は沢田綱吉さんに会いに来たんだから、暢気に喋ってもいいでしょ」
「仕事はどうした」
「はいはい、ちゃんと終わっているわよ」
俺に会いに?と疑問を口に出す前に、あれよあれよ二人の話は進み、
一つのデスクを受け取ったリボーンはもう用はないとばかりに部屋を出て行った。
あ、リボーン案内ありがとうねと言っていたがきっと聞こえていないだろう。
いや、リボーンなら・・・あいつ地獄耳だからなあるいは。
「沢田綱吉さん、本日は私は貴方に会いに着ました」
何だか悪戯をしますといった様に話す彼女が可愛らしく、思わずドキッとしてしまったのは内緒だ。
ばれたら色々大変そうだしね。
何気なく守護者達の顔を窺うと皆、雲雀さんですら気になるようでを見ていた。
「色々と常識離れしていて迷惑も沢山かけていると思いますが、
これからも愚兄を宜しくお願いします」
未だに床に撃沈し白目を剥いた獄寺をチラリと見、丁寧に90度のお辞儀をする。
「それと本当に沢田さん命で結構単純な人なんで、馬車馬の如くこき使ってやって下さい。
きっと兄も喜びます」
・・・ごめんね、言われる前から馬車馬の如くこき使ってたかも。
主にリボーンが。
「バレンタインデーと言う事でこれ賄賂です」
え!?自分で賄賂って言っちゃうの!?
突っ込みながらも受け取ってみると、ツナが好きなメーカーのチョコだった。
これすっごい高級チョコで俺だって中々買えないのに!
目を丸くする俺にはふふと笑いを漏らした。
「ありがとう。でも何で・・・」
「!!」
それにしたって何で俺の好みを知っているのかと問おうとしたが、
復活した獄寺によって遮られる。
「お兄ちゃん煩い」
突進してくる獄寺を今度は避けずに少しよろけながらも受け止め、
口では煩いと言っているが顔を見れば仕方ないなといった風に微笑んでいた。
「お前、家に手紙を残して消えたって」
「消えたって・・・何時もどうり仕事とか行ってただけよ?手紙だって少し長くなるからって」
そ、そういえば彼女は獄寺君の・・・
俺が困惑しているのを察してか、獄寺君がクルッと向き直りを俺の前に出す。
「すいません十代目。紹介が遅くなりましたが俺の妹です」
大げさに土下座する勢いでお辞儀し必死に謝る獄寺。
「です」
名前は獄寺君が何度も言っていたが、改めて聞くと何か違和感を覚え首を傾げる。
「何か可笑しくないか?」
それは横にいた山本も同じだったようで、首を傾げていた。
「苗字、苗字が獄寺君と同じじゃない」
ツナがポツリと零すとやっぱり気づかれちゃいましたねとは苦笑いをした。
「私の母は身分の低い妾だったんで苗字は頂かなかったんです」
頂かなかったのではなく貰えなかったと俺には聞こえた。
正妻や妾、辛い思いもしてきたと容易に想像でき、の瞳にも微かに悲しみが見え隠れしていた。
獄寺君も悲しそうに目を伏せるが、直ぐにを真直ぐ見る。
「正妻や妾腹なんて関係ねぇ。
親父だって訳隔てる事無くをウザイぐらい溺愛してただろう?
今だってが行方不明だって大騒ぎだ」
え、ウザイぐらいって・・・父さんが母さんに接する様な感じかな。
いやいや、それより見つかったって報告しなくて大丈夫なのだろうか。
「そうだね。お父さんは私をある意味分け隔てて育ててくれた」
遠い目になるは何処か悲痛に叫んでいる様に見えてならなかった。
の言葉お父さんは、ではその他の人は。
答えは聞かなくても、の様子を見ていれば自ずと分かる。
「そんな顔しないで下さい。
今だって私は十分幸せだし、
お兄ちゃんにとかが惜しみなく愛してくれてますから」
ね?お兄ちゃんと言うの顔はいい笑顔で、
獄寺君もの手をギュッと握りしめて、ああと頷いていた。
*
そんなこんなが合ったわけだけど、
その後俺は何故か2人が兄弟だと言うことをすっかり忘れてしまう。
それはきっと、2人が余りにも兄弟だと言うことを表に出さなかったのと、
奴が付き纏うことになり2人で話す時間が減ってしまったとことがあるだろう。
まあ、兄弟だと困ることは別にないのだけど、
ただこの頃を思うとは笑わなくなってしまった。
何が原因かはっきり分からないけど、
何となく骸絡みだと直感は告げている。
骸も決しての表情を消したかった訳ではないだろう。
だけど結果を見れば明らかで、意外な事に不器用な骸に驚き溜息が出る。
ス〜と知らないうちに相手の懐に入る、
そんなやり方は骸の常套手段だったはずなのだからすればいいのに、
態々警戒されるほどゆっくりと近づく骸にヤキモキした。
もしかしたらしないのではなく、出来ないのかと最近では思っているのだが・・・
計算づくされた演技という可能性も否めない。
どっちにしろ、今年のクリスマスで今の状況を進展させて欲しいものだ。
骸にとって不幸な結果になってしまっても。
俺は骸にも幸せになって欲しいけどやっぱりの方が大切だし、が幸せならいいかなと。
ごめん骸、
失恋パーティーはちゃんとディーノさん達を呼んで盛大にやるから許して?
2008,3,15
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書き始めてからアップまで1ヶ月以上もかかってしまいました(泣)
既に失恋と決め付けて、そこはかとなく黒いツナでした