Melanchoil Coworker
は純和風な廊下を歩いていた。
彼は和風というより、豪華なソファーやら無駄に煌びやかな洋風の部屋が似合っていると思う。
まあ、襖の絵柄は派手だけど。

襖をノックしようと拳を襖に近づけるが、 襖をノックするなんで邪道という考えのはノックする格好、何とも間抜けな体勢で止まってしまう。
数秒悩んで出た結果は、無言で開けると言う何時もと同じだった。

「ノックぐらいしなよ」
「気が向いたらね」

とは言うものの一生しないと心の中で呟き、あることに気づいた。
今更だけどノックじゃなくて声をかければよかったのでは?
何だかんだ言っても彼の事だ、 あまり気にしてないだろうし、どうでもいいかと少し投げやりに考えを纏める。

「何時来ても何もない部屋」

キョロキョロと周りを見渡し、 端に積んであった座布団を引っ張り、数枚重ねて置いて座る。

「何で何枚も重ねるの?」
「一枚だとお尻り痛いし。決して恭弥を上から見下ろしたかったんじゃないから」

言わなくても恭弥とて、が見下ろしたくて座布団を何枚も敷いたのではないと分かっている。
唯単に畳、障子、襖と言った和室自体が日本で育ったとはいえ、 そういった日本らしき物に馴染みがなかった。
なぜなら家が洋風だったことと、 諸事情ににより幼少時代から日々色んな国を飛び回っている生活が十数年、 すっかり日本にいる時間の方が少なくなっていた。
日本育ちとは建前になりつつあると自分でも分かっていたが、 やっぱり生活習慣や食べ物、日常の常識に関しては日本が馴染み深かったのだ。
いろんな意味でゴテゴテしたイタリアよりも。
ただ、障子や畳を目の前にしてしまうと つくづく自分は日本育ちと言っていいのか戸惑ってしまう。
そんなこんなで畳、障子、襖の類を苦手と思ってしまう節があった。

だが苦手なだけで嫌いではない。
独特的な匂いや雰囲気が心を静かにさせてくれるそれらは、寧ろ・・・。
その証拠に数枚重ねた座布団の上で器用にバランスをとり、嬉しそうに正座をしていた。
とは言えは微かに口元を緩めただけで、をよく知らない者が見れば気づかないであろう小さな変化。

「分かっていても我慢できる事と出来ない事があるって知ってる?」

恭弥はトンファーを出し、今にも殴りかかってきそうだ。
しかしは関係ないとばかりに 恭弥が飲んでいたお茶を奪い、飲んでいた。
一応失敬と呟いていたがあまりに小さな声で、恭弥には聞こえていなかったかもしれない。
一息入れたとこで改め、ムッとした顔で言った。

「・・・嫌って程知ってる。だから今日此処に来たんだけど」
「じゃあ、さっさと用件を言いなよ」
「その前にトンファーしまって。 全く何かにつけてトンファーを出すんだから」

は何でもかんでもトンファー出すの禁止と言おうとしたが、 恭弥からトンファーをとったら何も残らない気がして言うのを止めた。
恭弥はが失礼な事を考えてるとは露知らず、 トンファーをしまい、に奪われたお茶を奪いかいし、飲んでいた。
お茶を奪われたのを見て舌打ちする
これは元々僕のだよと恭弥は睨んだが、反対に恨めしそうに睨まれた。

「お茶」
「・・・」
「お茶」
「はぁ、仕方ないな」

渋々お茶を出す為に立ち上がった恭弥を見て、当たり前の様に言う。

「茶菓子も」

図々しいにも程があると言いたかったが、 キラキラと目を輝かせているを見てしまい諦める。
何だかんだ言い恭弥はに甘いのだ。
その原因はの柔らかい雰囲気と恭弥の興味力を惹く強い力だろう。
普段はセーブしているのか普通なのだが、 感情的になると恐ろしいほどの怪力を発揮する。
Loveの骸さえも顔を引きつらせる程の力。
勿論、戦い好きな恭弥は挑んだが、激高していたに見るも無残にボロボロにされた。

だがは僕に勝っておきながら自分は弱いと抜かした。
言われた時には分からなかったが、今なら分かるような気がする。
いくら力があっても心が付いていかなく、感情を上手く抑えられない。
感情的に動いていれば、為全力で戦うことも間々ならないのだ。
隠すため何時も無表情を装っているが、人一倍感情豊かな彼女。
普通だったら美点なのだろうが、 マファイとは非常な仕事も多い。
一々感情的になっていた殺しなんてらやっていられない。
僕はそんな強くて実は脆く弱いに興味を惹かれた。
勿論恋愛感情と言う訳ではなくだ。

「あの南国果実を暫く足止めして欲しいんだけど」
「嫌」

を唯一感情的に出来るのは六道骸。
救いようのない変態だ。
ストーカーされたり、何かにつけて触ってきたり、 勝手に卑猥な妄想をされれば怒りたくなるのも分かるが、 何時もみたく無表情でのらりくらりとかわせばいい事だ。
まあ、僕だったら存在自体が不愉快だから即、咬み殺すけど。
果たして声を荒げる事だろうか?
それ程、あいつを意識しているという事なのだろ。
君、趣味悪過ぎるよ。

「そこを何とかお願い」

ふと頭を過ぎる。
あの頭、いや顔は見たくないがあいつの邪魔をしつつ、 咬み殺せばいいストレス解消になるかもしれない。
が、いかせん僕も暇じゃない。
と言うのはたてまえで、奴の顔を見たくないと言うのが本音。
最悪な事に昨日会ったばかりだったんだよね。
あんな奴毎日会いたくない。

「報酬として恭弥が前から欲しがっていた情報でどう?」

迷いを見せる僕には珍しくニヤリと笑った。
僕が頼んでおいた情報。
とっくの昔に調べ終わっていたのに、何かの時と切り札として隠し持っていたのだろう。
確かに僕は期限は言わなかったが・・・何とも抜け目ない。

「・・・今回だけだよ」
「うん、ありがとう」










「微妙だね。僕だって何処まで止められるか分からない」

なんたって奴は変態だからと副音声が聞こえてきそうだ。
無理でも止めてほしいだったが、あまりごねると恭弥に拒否られる可能性があるので無言を貫きとおした。

「唯、任務は止められないからね」
「もうそれぐらい分かってるって」

ここで止めてよと言えば少しは変わったかも知れない。
後々この事を否定すればよかったと後悔するとは知らないは、暢気に茶菓子をこれでもかと言うほど頬張っていた。

「この茶菓子美味しい!!」
「いくら美味しくたって口に入れすぎだよ」
「え〜これぐらい普通だよ」

口に目一杯入れて頬がハムスターみたく膨れるのは普通じゃない。
いや、の普通を信じるのも、求めるのも間違っている。
なんたって彼女は、何処かずれていているのだから。
現に口一杯にお菓子を入れてるはずなのに、モゴモゴする事無く普通に喋っている。



(ねぇ君、遠慮という言葉知らないの?) (遠慮?あの変態と会って捨てたけど何か?)