彼と結婚して、もうどれだけ経ったんだろう。
おかえりより先に
あたしと、蓮のお母さんは仲良しだ。
夜遅くまで話していることもよくあるし、一緒に出かけることも多い。
今日もいつものように、あたしとお義母さんは遅くまでふかふかのソファで笑い合っていた。
ふいなドアの音が、彼が帰ってきたことをあたしたちに知らせる。
蓮は今日、高校生時代の同級生たちと同窓会があった。
蓮はお酒を飲むことは控えているが、何かあったのだろうか。
かなり遅かった。
「蓮?お帰り。遅かったね。」
あたしはにっこりと微笑んだ。
蓮はあたしの隣に腰を下ろす。
「・・・」
そして、あたしに肩を預けた。
あたしの肩に、蓮の体重が掛かる。
「ちょっ・・・蓮、どうしたの?今日、何か変・・・」
「悪い・・」
そうは言っても、離れようとする気配は全く無い。
あたしはどうすることもできなかった。
「あらあら・・・どうしたの?」
お茶を汲みに行ってくれていたお義母さんは、その蓮の様子を見て驚いたように声を上げた。
「・・・疲れてるのね。」
「あの・・・ちょっとお義母さん・・・」
「はいはい、分かってますよ。夫婦の仲を邪魔するほど馬鹿じゃないですからね。」
そうお義母さんは微笑むと、おやすみ、と部屋を出て行った。
「蓮・・・何があったの?」
あたしはお義母さんの階段を上がる音が消えてから口を開いた。
「・・・疲れた・・・」
そう言って目を閉じる彼は、今までにないくらい弱って見える。
「あいつに、会ってきた。」
「・・・あいつ?」
「ああ・・・コンクールの・・・」
「・・・香穂子ちゃん?」
そう言うと、蓮は頷いた。
「寂しがってるんじゃないか、と言われた。」
「・・・誰が?」
「・・・奥さんが。」
「あたし?」
「でも別に、俺は気にしなくてもよかったんだな。」
蓮は、いつもに増して冷静に言った。
あたしは、そんな彼に少しの恐怖を覚えた。
「には、話す相手がいるから・・・俺が急いで帰ってくる必要は無かったんだな。」
「蓮・・・?・・・もしかして・・・」
「同窓会、抜けてきた。」
その言葉を聞いたあとに、嬉しさからなのか、悲しさからなのか分からない涙があたしの頬を伝った。
「何、してんのよ・・・」
「?」
「寂しくないとでも思ってたの?!あたしが?そんな勝手なこと言わないで!!」
蓮は、怪訝そうに眉をひそめた。
でも、あたしの気持ちは止まらなくて。
「・・・寂しいに・・・決まってるじゃない・・・!!」
どんどん涙が溢れる。
「あたしは・・・蓮と結婚したんだよ?・・・蓮が居なくて、誰があたしの傍に居てくれるって言うのよ・・・!!」
「・・・・」
「今日だって朝、行かないでって言えなかったの・・!!そんな我侭言っちゃダメだって・・・我慢してたの・・」
「・・っ」
「でも寂しかった!!もっと・・・一緒に居たかったの!!」
「!」
蓮はあたしの名前を呼ぶと、立ち上がって叫んでいたあたしを引き寄せた。
「悪かった・・・俺の一方的な意見ぶつけて・・・」
そのまま、抱きしめられる。
「嫉妬・・・だな。・・・悪い。」
あたしはゆっくりと、蓮の胸に身体を預けた。
「あたしも、ごめんね。」
あたし、これから、ちゃんと自分の気持ち、正直に言うね。
おかえりより先に。
寂しかったって。
大好きだよって。
だから、今夜はずっとこのままで居ようね、蓮?
END
あとがき
紫姫さま、キリリクありがとうございました!
3作目できました!!
たくさんのリク、どうもありがとうございました!
何か明るい作品にならなかったんですが・・・いかがでしょうか?
マスオさんな蓮はちょっとギャグっぽくなってしまうような気がしたので、こっちにしました。
未来夢、すっごく面白いですね!
また新婚さんとかいいですね〜書いてみようかなぁ・・・