夢だと思えなかった。
夢が醒めるまで
「あ・・れ・・・?あたし・・・何でこんなところに・・・」
あたしは、自分が廊下に倒れていることに気付いて、慌てて身を起こした。
辺りを見回してみるものの、全然人影が見当たらない。
どう考えても穂稀学園の校舎とは違うつくりだ。
「どこだろ・・・ここ・・・」
頭にはてなを浮かべていると、少し向こうから音楽が聞こえてきた。
遠くに聞こえる音楽は、何だかとても切なくて。
自分が今、どんなところにいるのかも忘れてしまって、ただその音楽を追って歩き出した。
途中、案内図のようなものを見かけた。
覗いてみると、最上部には『星奏学院音楽科』と書かれていた。
「星奏学院・・・?聞いたこと無い名前だなぁ・・・あたしどうしてこんなところに・・・」
確か・・・今日はいつもに増して要が浅羽兄弟にイジられてたよね〜。
で、春が好きなももカルピスが売り切れててさ〜・・・機嫌が悪かったよね、春。
案内図にもう一度目を落とすと、赤い矢印で現在地と示された向こうに屋上へと続く階段が記されていた。
きっとこの切ない音は、ここから聞こえてくるものなのだろう。
そんなことを思いながらとぼとぼと歩いていくと、目当ての屋上へ続く階段が見えてきた。
屋上は夕焼け色に染まっていて、何だか幻想的だった。
やっぱり風だけの強い穂稀高校とは違う。
「誰だ?」
ふと、声が掛かった。
人影を探してみると、視界の右端に、長髪の男の人が見えた。
「見ない顔だな。ここの生徒か?・・いや、制服が違うな・・・どうやってここへ入ってきた?」
そう言いながらずんずんあたしに近づいてくる。
近くで見ると余計に、綺麗な人だと分かる。
あたしは思い切って聞いてみることにした。
「あ・・の・・・穂稀高校って・・・知ってますか?」
「穂稀?・・・知らないな・・・お前は、そこの生徒か?」
「はぁ・・・一応・・・あたしもどこがどうなってこんなところに来てしまったのか・・・」
首を傾げながら深刻そうに言う。
「・・・俺は興味無い。」
彼は、冷たく言い放った。
「あの・・・どうしてそんなに悲しそうに吹いてるんですか?」
「・・・悲しそう?・・・俺が?」
あたしは無言で頷いた。
「すごく、聞いてて切なくなります。何か・・・あなたが・・泣いているような・・・」
「・・・。」
「あっ・・・ごめんなさい!勝手なこと言って・・・でも、あなたは・・・何がそんなに悲しいんですか?」
相手が無反応だということに気付き、あたしは慌てて謝った。
「その楽器・・・フルートですよね?音楽は、楽しむものだと聞きます。でも、あなたの演奏は、楽しそうに聞こえません。」
本当に、そうだ。
音楽は、人を楽しませることができるもの。
音楽に関わりのある人は、皆、幸せそうに笑っている。
でも、この人はどうして・・・
「音楽は、人を映す鏡のようなものだ。」
彼は、ぽつりと呟いた。
「実際、俺は音楽を楽しめていないのかもしれないな。」
困ったように笑った様は、無性に切なかった。
「お前の名前は?」
「、、です。」
「か。・・・ありがとう。」
「・・・あなたの、名前は・・?」
「俺は・・・」
「・・・、起きなきゃ風邪ひくよ?」
深い眠りに落ちていたらしい。
悠太の声で我に返った。
「あれ・・・悠太?・・・こんなに大きくなって・・・」
「いや、さっきと変わってないから。何ねぼけてんの。」
そう言いながら、あたしの鞄を手渡してくれる。
・・・ということは、さっきのは夢?
あたしは不思議に思いながら辺りを見回している。
ここは、屋上。でも、さっきの夢とは全く違う。
しばらくきょろきょろしていると、悠太に頭を小突かれた。
「ほら、さっさと帰んないと。要が角生やして怒ってるよ、きっと。」
「あら、そりゃ大変!要の頭の血管がキれちゃうね☆」
「笑いごとじゃないからそれ。」
悠太と笑いながら屋上から駆け下りる。
―――それにしても、あの夢は何だったんだろう・・・
あたしは、まだ濡れている頬を擦った。
「結局名前聞けなかったな・・・」
「ん?、何か言った?」
「ぅっ・・ううん!!全然!!さ、急ごう!!」
―――まぁ、また夢で会えるかもしれないし、またそのときに聞こう・・・
帰り道、どこかで、明るいフルートの音が聞こえたような気がした。
END
あとがき
紫姫さまキリリクありがとうございました!
えっと・・・こんなのでよろしかったでしょうか?
もしかしたらギャグを狙っててくれたのかもしれませんが・・・
こんなのになっちゃいました。
最後はギャグを織り交ぜてみたんですが・・・
いかがでしょうか?こんなのでごめんなさいッ!!