パロディ

□武姫は深き黒に惑う
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昔から、表情の変化が乏しい幼馴染みだった。

おかげでその微妙かつ僅かな表情の揺れを読むことに長け、女官となった今現在その能力を買われ重宝されていたのだが、それがまさかこんなことになるとは・・・・。



「別れてください」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい?」

















武姫は深きに惑う

















ちょっと待って。落ち着け自分。


今目の前でこちらを親の仇かのように見つめてくる子は、同じ女官で私の後輩。

うん。それはいいんだそれは。



「あの方と私は許嫁同士・・・親が決めたこととはいえ、あなたに迫る権利はあります」


「・・・・はあ」



だからそのあの方っていうのが誰か、って問題なわけで。こちらとしては。

困惑して眉を寄せると、いっそう相手から放たれる敵意が強くなる。

キツめの顔立ちをしている自覚はあったから、しまったとは思ったがもう遅い。



「・・・・・とりあえず、落ち着いてくださいませんか?なにがなんだか」


「──これだけ言ってもわからないのですね」


「・・・・・・・・・」



あ、ヤバい。今ピキッときた。



「・・・いわれなく非難される覚えはありません。これ以上は侮辱と受け取りますよ」


「いわれなく、ですって?さすが、下践な方は言い逃れがお得意ですのね」


「──口を謹みなさい。なにをもって下践とするかは個人の判断によりますが、あまり軽々しく人を貶めることは自らの品位を貶めることですよ」


「あなたのような人に品位を語れたくありませんわ」



──この我が儘娘が。


甘やかされて育てられたらしく、結果としてずいぶんと傲慢な性格のようだと珠翠様からあらかじめ言われていたが・・・今のはちょっと、いやかなりイラッときたぞ。


我慢、我慢だ自分。こんな王宮女官なんて割のいい仕事、今になって棒に振るのか?

雷炎と燿世のくだらない喧嘩の仲裁を無理矢理させられた時の寛大な心を思い出せ。



「──あの方にこれ以上付き纏うのなら、私たちにも考えがあります。覚悟しておきなさい」



・・・いや、あの時は問答無用で二人ともぶちのめしたんだった。むしろ思い出したらダメだよそれ。

一瞬で地に臥した両羽林軍将軍に、精鋭の羽林軍たちが冷や汗を流していたのも、今ではいい思い出だ。


まだなんかぐだぐだ言ってるけど、これ以上話を聞いてやる義理はないしこちらの堪忍袋の緒も限界だ。



「──・・・ちょっと、聞いてますの?」


「・・・・・一応」


「まあ!!」



だーかーらー・・・。

ギッ、とかそんな精一杯の敵意込めて睨まれても、こっちは燿世や雷炎と小さい頃から付き合ってたおかげで、敵意どころか歴戦の猛将からの殺気と剣戟に晒されてきたんだから、怯むわけないんだよね。


どうしようかと思っていると、埒があかないとでもいう風に相手の女官が身を翻した。

その際「覚悟しておきなさい」との捨て台詞も忘れない。


ため息を吐きたいのを懸命に堪えつつ、はやっと本来の仕事へと戻っていった。



















「あ゙──!イライラする!!」


「・・・・・・・なにかあったのか」


「そう、あったの!!聞いてよ燿世!」


ドン、とそこらの男より雄々しく酒盃を置き、向かいに座る燿世へ身を乗り出す。


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