企画もの
□第二話
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くだんの件から、五日。
「・・・・・・・・なるほど。そうきたか」
やっと訪れた"考え"に、は思わず手で額を押さえた。
武姫は深き黒に惑う
「化けたよなあ・・・」
しみじみと呟くのは、羽林軍大将軍白雷炎。
左右羽林軍所属の武官たちが一堂に介する毎年恒例新人武官歓迎の宴。・・・もとい、酒呑み大会ではあるが、今年は例年になく落ち着いた雰囲気で進行していた。
真っ先に白熱するはずの白黒大将軍たちですら、いやに静かに酒杯を傾けている。
原因は、宴会場の中央で舞う一人の女官。
言わずもが、両大将軍の幼馴染みのである。
「美しい・・・」
誰かの呟きが聞こえた。
普段ならその単語がどうすればに繋がるのかと鳥肌を立てているところだが、今ばかりはさすがの雷炎もそれを否定することはできなかった。
纏うのは両大将軍にちなんだ白黒の衣。彼女自身は白家でも黒家でもないのだが、縁深いにならと両家ともそれを了承している。
むしろ将来的にずっとどちらかの色を纏う気はないかとまで言われるくらい、は白家からも黒家からも気に入られているから、文句を言われるはずもなかったのだが。
瞳を伏せ流れるように剣を衣を翻すその動作は、さすがとしか言いようがない。まるで剣すらも体の一部であるかの如く、自在にそれを操ってみせている。
ひょとすると扇舞の方が下手なんじゃ・・・とは、言わない。そんなこと口にしたが最後、よろけたふりしたに斬られかねないから。
「よくが剣舞やるなんて承知したよな」
「・・・・・・」
「──・・・おい、燿世?」
「・・・・・・・・・・・」
ダメだこいつ、と雷炎は深くため息を吐き、燿世に話しかけるのを諦めた。
はたからはわかりにくいが、茫然としてに見惚れている燿世になにを言っても無駄だ。耳に入っているのは大方の纏う衣装の衣擦れの音か、彼女の腰にくくりつけてある鈴の音ぐらいだろう。
燿世は呆れるくらい一途な男で、に片想いし続けること──・・・うん十年。
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