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□第二話
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燿世は呆れるくらい一途な男で、に片想いし続けること──・・・うん十年。
早い話が一目惚れして以来ずっとしか見えていない。初対面は確か自分も燿世も五・六歳だったはずだから──。
「・・・・・・・・・・・・不憫な奴」
かく言う自分だとて同じ境遇なわけだが、同病相憐れむ、というやつである。
惚れた相手が悪い。どう考えても周囲も本人も厄介なことこの上なく、おまけに後宮女官なんぞになって無駄に人目を集める容姿なものだから一気に恋敵が増加したときた。唯一の救いは、そんなが色恋に対して米粒ほどの興味もないところであるが──それは同時に陥落の難しさを上げるものでもあり、複雑な心境だ。
それでも諦める気にすらならないのが、また不思議なところである。
舞が終わった。一礼して下がるの表情には、疲労の色が濃い──これもまた幼馴染み故にわかることだが、雷炎が不審に思ったのとほぼ同時に燿世が立ち上がった。
気配ひとつ感じさせないほど静かな動きに、雷炎は一瞬声をかけることを躊躇した。その隙に燿世はさっさとを追いかけて広間から出ていき、呼び止めようと上げかけた手は宙に所在なさげに浮く。
その手を首もとに回し、思わずため息を吐く。
「・・・健気なことで」
チラリと見えた燿世の手には、美麗な飾り鈴が握られていた。
は不機嫌だった。
「あー・・・どうしよ」
ため息とともに見下ろすのは、先ほどまで剣舞に使用していた剣。
さすがに舞踊用らしくいくら刀身に触れようと斬れはしない
その柄部分に刻まれているのはこの彩雲国の国紋。その下にある八つの花弁を持つ花は、それぞれ花びらが八色に塗り分けられている。
美術品やら工芸品などの類にあまり造詣の深くないでも、素直に見事だと感じることのできる意匠。
祖父経由で霄太師から渡された時は、いったいなんの冗談だと眉をひそめたものだが──
「斬れないものを斬る・・・か。あながちウソでもなかったのかな?」
──なにも斬ることのできないはずの刃は、今日の剣舞で使用するはずだった鈴を断ち斬った。
ほんの少し触れただけ、それこそ鞘から抜いてもいないのに音もなく二つに裂けた鈴は、あらかじめこれを身につけるようにと宴やなにやらの朝廷行事を一手に取り仕切る礼部から届けられたものだ。普段はこんな羽林軍の内輪の宴などに口出ししてくることはないのにおかしいと思えば、用意されたものすべてがあらゆる意味で危険物だった。
剣舞用のはずの剣は刀身の表面に薄く怪しげな液体が塗られているし、それを念入りに拭きとって紙を当てれば触れたところから裂けていく。衣に焚かれた香もなにやら怪しげだと剣から拭き取った液体とともに知り合いの医官に見せると、彼は面白いくらい一気に顔色を変えた。真っ白を通り越して真っ青になった顔に真剣な表情をして、手渡されたのは万能の解毒薬。
その段になり、やっとはそれらが皮膚吸収性の猛毒だと知らされたのだ。
正直、ここまでやるか、と呆れている。色恋が絡むと女はいろいろ面倒なのだなと溢したら、同意してくれたのは祖父の悪友だった。祖父は渋面を作って低く唸っていたが、ぼやくようにそいつと意見が合うようになれば終わりだとかなんとか言っていたような気もする。
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