企画もの

□第二話
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まあ、そんなこんなで、急遽自前で衣裳──普段着が男物のにとって、女人の服はすでに仮装に近い感覚があるのだが──を用意せざるを得なくなり、この怪しすぎる剣を祖父から手渡されたのだ。

はあ、と息を吐いて剣を脇の手が届く位置によける。リンリンとうるさい腰の鈴も外した。

舞踏用の大ぶりなそれは、本来輝くような白銀だ。少なくとも、が祖母からもらった時はそうだった。今は以前ほどの輝きはなく、また幼い頃のの体に合わせて作られた物なので少し小さい。もしこれが内輪の宴ではなく王や他の朝廷官僚たちが会するものであったなら、到底使用できるはずもない。だがそうした宴でなら、衣裳の不備──どころの話ではないのだが──を礼部に申し立てることができる。そうなれば叱責を受けるのは礼部だ。だからこそ普段関わることのないこの宴に目をつけたのだろう。

毒に気づかず死ぬ、もしくは体を壊せば重畳。気づいたとしても普段関わることのない宴なのだから、不備を申し立てられてもシラを切ることができる。

どうにも浅はかで短絡的な考えだが、心当たりはひとつしかない。



「指導女官からは外されたしなあ・・・」



なんというか、ビシバシ指導の前段階で全員が泣き出してしまったのだ。

今まで何回か指導女官をやってきているが、今回のように全員に泣かれた──それもまだ本格的な指導には入っていない──のは初めてだ。駆けつけた筆頭女官の珠翠も、呆れ果てて暫し立ちつくしていた。互いに目を合わせれば、だいたい言いたいことも伝わる。



(今年はダメね──)



あの程度で泣き出してしまうような女官なら、いらない。少なくとも王や后妃たちの側に侍らせるわけにはいかない。

八年前のように後宮を腐らせるわけにはいかないのだ。

即座に当初与えるはずだった位よりも下の位にすることを、その時珠翠もも決めていた。そして珠翠がその女官たち全員をの下から外すだろうことも、その時点で予想がついていたのだ。

新入り女官にはもちろん知らされていないが、指導に、または珠翠がつくことはすなわち後に王や后妃たちのもとに侍るための指導を受ける、ということだ。もちろん途中で二人が失格と判断すれば話は違うが、彼女らの指導について来られた者たちは現在後宮女官たちのなかでも高位にいる。例外はない。

初日で失格者を出すのは初めてではないが、それでもいきなり顔合わせの次の日に全員を失格にしたのは初めてだ。

おかげで『新人いびり』なんて嬉しくもなんともない称号はもらうし、ちまちました嫌がらせが日常になってしまった。煩わしいことこの上ないが、今回の件もその延長なのだろう。どうやらこの前やたらと敵対心剥き出しにしていた子が首謀者らしき位置にいるらしいし、他の心当たりはもっと程度の高い方法──暗殺者三十人やら、夜道でいきなり矢が放たれるやら──でくるはずだ。

毒の出所は祖父が責任を持って(くだんの悪友に)突き止めさせるらしいし、今回の失敗を見てもむこうはあまりこういうことが得意ではない。いずれ刺客を放つなどの直接的な方法に走るだろうから、そうなればこちらの得意分野である。思う存分叩きのめせば、少しはすっきりするのだろうが・・・・。



「・・・んで、燿世は私に何か用なの?」


「・・・・・・・・・」



いつのまにいたのか、が後ろを振り返ると燿世が静かにそこに佇んでいた。

酒宴の席を立ってくるとは珍しい───燿世は雷炎同様、うわばみなどというかわいらしい言葉ですまないくらいの大酒呑みだ───上に、どことなく違和感を感じる。


無言のまま隣に座るのも、その前にちらりとこちらに視線を向けて是非を問うのもいつものことなのだが、今日はその動作がぎこちない。緊張しているようにも見えるが、なにかこの場に緊張する要素でもあっただろうか。



「──その、だな」


「うん」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・に、似合うと思った」



・・・明らかに言葉は足りなかったが、これでも長年幼馴染みをやってきている。それだけでは燿世の言いたいことを理解できた。


「──飾り鈴・・・・・・?」


「・・・好きだろう」



その言葉は少しだけ意外だった。




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